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立体保護効果がなくても空気中室温で安定な炭素原子中心中性ラジカルの合成に成功

2018.05.28 TOPICS

森田教授・村田准教授の研究グループ

 大学応用化学科の森田靖教授と村田剛志准教授(物性有機合成化学)が、立体保護効果がなくても空気中室温で安定な炭素原子中心中性ラジカルの合成に世界で初めて成功しました。

一般に、中性ラジカルの安定化には、立体的に嵩(かさ)高い置換基で分子骨格周辺を覆い、分子間での反応を阻害すること(立体保護効果)と、不対電子を分子骨格上に非局在化させること(共鳴安定化効果)の2種類の手法の"両方"を効果的に分子に施すこと(化学修飾)が重要であると、古くから知られています。特に、不対電子が主に炭素骨格上に分布している炭素原子中心型の中性ラジカルの場合の安定化には、立体保護効果の導入が必須であることがこれまでの110年にもおよぶ「開殻有機分子」に関する研究の歴史の中で常識となっていました。

森田教授・村田准教授の研究グループは、ベンゼン様の6員環6個と3個の酸素原子から構成されるトリオキソトリアンギュレン(TOT)と命名できる炭素原子中心型の中性ラジカルを独自に分子設計・合成し、その基礎的な性質、二次電池活物質への応用等に関する研究を精力的に展開してきました。今回、分子骨格周辺に置換基を持たないTOT誘導体(H3TOT)の合成に初めて成功し、この中性ラジカルが空気中室温で高い安定性を有していることを明らかにし、立体保護効果がなくても安定に取り扱うことができる初めての炭素原子中心型の中性ラジカルを具現化しました。

 

 私たちの身の回りにあふれている有機分子は、ほぼ例外なく偶数個の電子を有しており、「閉殻有機分子」と命名できます。電子は対になることで安定化され、炭素―炭素結合等の化学結合の担い手となります。一方、奇数個の電子を有する有機分子は「開殻有機分子」と呼ばれ、不対電子を持つことによる不安定性のため一般に反応性が非常に高く、空気中で取り扱うことが困難な物質群です。電気的に中性な「開殻有機分子」は「中性ラジカル」と命名され、高分子重合触媒の活性種や有機合成反応の反応中間体として広く知られていますが、その化学種の空気中室温下での単離は容易ではなく、上記した2種類の安定化手法を共に考慮した化学修飾が必須です。

森田教授・村田准教授の研究グループは、上記したH3TOTの合成に成功し、立体保護効果がなくても空気中安定な中性ラジカルの開発に成功しました。

 また、単に安定化に成功しただけでなく、不対電子の非局在化に起因する特異な自己集合能についても明らかにしました。H3TOTは、溶液状態においてはπ型ダイマーを形成し、固体状態においては3次元的な集合構造を構築することがわかりました。このような中性ラジカルの強固な多次元的ネットワーク構造の形成はこれまで未知であり、奇数個の電子から成る中性ラジカルという特異な電子スピン状態を持つ有機分子を起点にした電子機能性材料の研究に新しい展開を創出する画期的なものです。

森田教授・村田准教授の研究グループは、この中性ラジカルを用いた高性能リチウムイオン有機二次電池や単成分純有機電気伝導体、近赤外光吸収材等の様々な機能を明らかにしており、燃料電池用酸素還元触媒への応用など、さらなる研究展開も進めています。

(1)発表論文はこちらから無料でご覧いただけます

http://www.journal.csj.jp/doi/abs/10.1246/bcsj.20180074

(2)本研究成果に関する記事が下記の報道機関にて掲載されました

日経産業新聞 先端技術面 2018年5月28日(月)

    記事タイトル: 「不安定な分子 壊れにくく 愛工大」

(3)記者説明会資料(研究内容の詳細)は、研究室HP上に掲載予定です

http://aitech.ac.jp/~morita/index.html

  • 森田靖教授(右)と研究グループの村田剛志准教授
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