NEWS詳細

生津教授ら、引っ張りに強いカーボンナノチューブの構造特定に成功

2019.07.11 TOPICS

 科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業で、ERATO伊丹分子ナノカーボンプロジェクトの伊丹健一郎研究総括(名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所拠点長/教授)、本学の生津資大・機械学科教授らの研究グループが、引っ張りに強いカーボンナノチューブの構造を特定することに世界で初めて成功しました。軽量で高強度な究極の構造材料の実現に近づく研究成果で、英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されています。

 記者発表は7月9日に名古屋大学で行われ、同研究プロジェクトの宮内雄平グループリーダー(京都大学准教授)、生津教授らのほか、生津教授のナノテク研究室の院生も出席して記者の質問に答えました。

 カーボンナノチューブは、これまで引っ張りに対する強さ(引張強度)が試料ごとに大きくばらつき、どのようなチューブが強いのか分かっていませんでした。同研究プロジェクトでは、構造をきちんと決めた1本の単層カーボンナノチューブの引張強度測定を実現するため、物理、化学、機械工学といった異なる学問領域のバックグラウンドを持つ専門家の力を結集し、合成、構造決定から引張強度測定までの一連の実験を精密に設計しました。

 ナノテク研究室の院生らは、フォーク状の微細なマニピュレーターを考案してのナノサイズの試験片の移設など、困難な作業をこなしてきました。そして、独自開発した引張試験用の微小電気機械システム(MEMS)デバイスと電子顕微鏡内サンプリング(抽出)技術を組み合わせることで、炭素の並び方(幾何構造)および直径と引張強度との相関を実験的に取得することに世界で初めて成功しました。

測定の結果、直径が小さく、かつ、「近アームチェア型」(炭素原子が椅子の肘掛のようにカーボンナノチューブの円周に沿って配置されている「アームチェア型」に近い構造)と呼ばれる構造のカーボンナノチューブが高い引張強度を持つことが明らかになりました。同研究プロジェクトで実験結果を解析し、幾何構造と引張強度の相関実験式を見いだしました。

 本研究により、単層カーボンナノチューブの構造材料としての応用には「直径の小さい近アームチェア型の単層カーボンナノチューブの選択合成を狙うべきだ」という明確な指針が得られました。実際にカーボンナノチューブを構造材料として利用するためには、強度を保ったままロープを編む方法の開発など、克服すべき問題が多く残されていますが、「宇宙エレベーター」に代表される長大な建造物をナノサイズの構造材料で実現させるというロマンに、一歩近づくことができました。

■詳しい研究内容
引っ張りに強いカーボンナノチューブの構造を特定 -軽量で高強度な究極の構造材料の実現に一歩近づく-

  • 単層カーボンナノチューブの引張試験について説明する生津教授
  • フォーク状の微細なマニピュレーターで単層カーボンナノチューブを拾い上げる(ピックアップ)
  • 拾い上げた単層カーボンナノチューブをMEMSデバイスの2つのステージに橋渡しするように設置する(MEMSに固定)
  • 単層カーボンナノチューブが破断する瞬間の観察像(引張強度測定)
  • カーボンナノチューブの分類。各単層カーボンナノチューブは直径とカイラル角の組み合わせで分類される。
PAGE
TOP